「愛してる」


そう言って手の甲に触れるようなキスをされた。


今夜は月がとても綺麗で。
この場所はその白い姿を余計にはっきりとうつしだすには充分だった。

月が似合うのが悔しいくらいに格好良く見えて。
そいつが、自分に対して恋人にでも言うような台詞を口にしている。

自分に対して・・・。

今までにない、真剣な眼差しで・・・。



*************


「・・・・・・お前なぁ・・・」

自分たちの間に流れる空気があまりにも重たく感じて、咄嗟にいつものように口を開いた。
今さっき言われた言葉。
それはとても自分には重すぎて。
自分には、受け止めきれなくて。


頭の中ではわかってるつもりだった。
いつもふざけながら、たまに真剣な表情を見せながら言う、「好きだよ」の一言。
上手くさりげなくかわしながらも、心の中ではわかってた。
自分の事を見つめる眼差しに。
いつもその言葉を言う瞬間だけに覗かせる、本音。

でも、真剣だから、どうしたらいいかわからなかった。

自分は・・・?

嫌な気持ちではない。

だけど・・・


あいつほど、自分の気持ちに自信を持てない。





どうして、そんな簡単にそんな言葉を言える?



どうして、そんな真剣にそんな言葉を言える?





「・・・んなこと言うためにわざわざ呼びつけたのかよ?」

いつもと違う雰囲気に耐えられなくて、いつものようにかわそうとした。
そうでもしないと、自分がどうにかなりそうだったから。
「あれ?不服だった?名探偵?きちんと正装までしてきたのになぁ・・・」
そんな思いに気付いたのか、いつものように、ちょっとふざけた返事をしてくれた快斗に
新一は少しほっとした。

快斗は・・・KIDの格好になると、途端に何もかもを欺くようにして、己の心を見せなくする。
それが、嫌いだった。

「だいたい、何でそんなふざけたカッコしてくんだよ?別にふつーでいいじゃねーか・・・
しかもこんなとこ来なくたって・・・」

そう言って、KIDに背を向けて、側にあった手すりへと寄りかかった。
今の自分の表情を、見られたくなかったから。


そう、ここは初めてKIDに出逢った、場所・・・


本当は、知ってる。
何で、今日なのか。
何で、この場所なのか。
何で、KIDの格好をしてきたのか。

全部最初から気付いてた。

快斗に「この日開けといて」って言われた時から。

ただ、わからなかったのは、自分の奥にある本当の気持ちだけ・・・。



「おやおや?名探偵ともあろうお方が何もわからずして今日この場に参られたのですか?」

後ろから茶化すように言われたかと思ったらいつの間にかすぐ後ろまで来ていて、ふわりと抱きしめられた。
強く抱きしめるわけでもなくて。
まるで大事な物を包み込むように。

それを、自分の中で心地いいと理解するまでにはそんなに時間はかからなくて。
曖昧な気持ちを後押しする形となっていた。


でも、どう答えていいかわからなくて。

どう、返していいかわからなくて。



「・・・お前さ・・・んな簡単にそんな台詞言うなよな・・・。」

「・・・へ?」

気付いたら、そう答えていた。
KIDは何が何だか意味がわからずに、きょとんとしてしまった。


「・・・んな簡単に・・・愛してるとか・・・言うもんじゃねーよ・・・まして俺なんかに」

突然の新一のその言葉にKIDが戸惑ってしまうのも無理はない。


「・・・新一?」


はっきりもしていない、己の気持ちが嫌だった。
だから、逃げたかったのかもしれない・・・。
逃げる口実にしたかったのかもしれない。


「好きだ、とかは誰に対しても簡単に言えるけど、その言葉は・・・重みが違いすぎるんじゃねーの・・・?」

愛する事。
それはその人の事を本当に心の底から大切に思い、どんな事があっても互いを信じ合い、
嘘偽りのない気持ちを持ち、その人を愛し続ける事。

好き、なんて言葉は親子や友達など、色んな状況下でも簡単に言えてしまう。
嘘であろうと、簡単な気持ちであろうと・・・

だから、まして気持ちがあやふやである自分に対してその言葉はとても受け止めきれなかったのだ。


新一の言葉に考え込んでしまったKIDは、暫くして新一を自分の方にゆっくりと振り向かせて再び優しく抱きしめた。


「・・・今夜は月が綺麗だな・・・」


まるで独り言を言うように話し出した。
新一がどこまで考えて言ったのか、全てはわからないけれども自分なりに解釈をして、自分の思いを付け足すように
口を開いた。


「月が綺麗だったら、綺麗だね、って思う。新一の事が好きだと思ったから好きだよ、って言った。」

そのゆっくりと語り出した言葉から、KIDの・・・いや、快斗の柔らかい真っ直ぐな感情が新一の心の中に
入ってくるようだった。

「でも・・・好きっていう言葉だけじゃ俺の思いは足りなくなってきたんだ。
それ以上の気持ちに気付いちゃったからね・・・」

「・・・・・」

「だから今日、この場で言おうと決めてきたんだ。決して安易に言ったわけではないよ。
心の底から本当にそう思ったから・・・だから・・・俺の言葉を信じて欲しい。」

そう言って再び真剣な眼差しを新一に向けた。



空に浮かぶ月がとても綺麗で。
その白い姿を綺麗に映し出していて。
そして・・・その心の持ち主の気持ちも綺麗で。


その瞳に映る自分は、綺麗な心を持てている・・・?
冷めた言葉、冷めた気持ちで本当の気持ちを誤魔化していない・・・?
そう、新一は自問自答してみる。

・・・俺は・・・


言葉から、表情から快斗の気持ちが充分すぎるほど伝わってきて、自分の思いのいい加減さに新一は苦笑した。
結局は、快斗の気持ちを素直に信じられていなかった。
信じる事を恐れていた。
自信を持てなかったのは、信じようとしていなかったからなのかもしれない。
綺麗な心を、押し殺してまで。

「・・・新一?」

突然笑みを浮かべた新一にびっくりして、思わず自分は変な事を言っただろうかとKIDはドキドキしてしまった。
新一の考えてた事なんて、当然わかるわけなかったから。

「・・・お、俺、何か変な事・・・言った・・・?」

おそるおそる聞いてみたが、新一は「いや・・・」と言うだけでKIDはますますわからなくなってしまった。

(本当に新一って喜怒哀楽激しいなあ・・・何考えてんだかわかんねー)

そう考えていると突然頬に痛みが走った。

「!!!」

新一に何をしたわけでもないのに、KIDは頬をつねられたのである。

「い・・・いひゃいよ〜」

必死に抵抗するが当の本人はじーっと痛がるKIDを見つめるだけで、手を離す様子は見受けられなかった。
だが、やがて素早くシルクハットとモノクルをKIDから取り上げたかと思うと、ようやく手を離して意を決したかのように
KIDに向かって言い放った。

「お前、今すぐそのカッコ、やめろ。」
「へ?」
「二度は言わない・・・俺は、快斗の方が・・・す・・・好き、だ、から・・・」

そこまで言うと、新一は急に頬を赤くして俯いてしまって、最後まできちんとした言葉を伝える事が出来なかった。
でも快斗には充分すぎるほど新一の気持ちが伝わってきて・・・。
嬉しさが心にあふれんばかりに満たされて、この思いを一体どうしたらいいかわからなかった。


瞬時にKIDの衣装から黒羽快斗の姿に戻ると、思いっきり新一を抱きしめた。

「お・・・おい!」

そんな新一の抵抗もお構いなしに更にぎゅっと抱きしめる。

嬉しくて、新一がとても愛おしくて、こうして目の前にいる存在をいつまでも確かめていたくて。

本当は、自分の言葉を信じて貰えないんじゃないかと快斗もまた、不安な気持ちでいっぱいだった。
いつも軽くかわされて、新一の気持ちをつかむ事が出来なかったから。

だから、どうしても今日、言いたかった。

KIDとしての自分も認めて欲しくて。
でも、本当の自分も認めて欲しくて。

贅沢かも知れない。
本当ならこのまま探偵と怪盗という関係でいれば良かったのかも知れない。
でも、自分の気持ちには嘘をつけなかった。
少しでも側にいたくて、守りたくて。


(・・・どうしよ・・・すげーうれしいvvv)
やっと、手に入れた。
自分だけの、名探偵・・・いや、工藤新一という愛する人。


そんな思いもつかの間、得意の蹴りで足を蹴られて目の前の相手から手を離さなくてはならなくなってしまった。

「・・・言っておくけどな・・・仕事の時は容赦しねーからな!」

未だ頬を赤くしながらも軽く睨みつけながら言い放つその姿も今の快斗には可愛く思えてしまって、
思わず笑みがこぼれてしまいそうだった。

でも、ここで笑ったらまた怒られてしまう。


「わかってるよ、俺だけの、名探偵・・・?」





月が、綺麗だった。
心も、何もかも見透かすような月明かり。
その二つの陰が再び重なり合った。

arataのようやくできた!というssをアップできましたv
さくらも楽しみに待ってましたv
KID…快斗と新一の出逢い編。
そーいやarataさん初の快新ssでは……!?
ステキです><;;                        2006.5.7